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仙台高等裁判所 昭和33年(ネ)13号 判決

控訴人 オリヱンタル畜産株式会社 外二名

被控訴人 岩手県経済農業協同組合連合会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの連帯負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用及び認否は、被控訴人が、甲第四号証を提出し、当審証人福島四一、高橋邦夫の各証言を援用し、控訴人らが、(一)被控訴人は法律形式上は民法一七三条一号の生産者ではない。しかし、被控訴人のした本件豚肉販売行為は、農業協同組合の性質上被控訴人さん下の単位農業協同組合を通じて同組合の組合員たる生産者の計算でされたのであるから、その実質上経済上の権利義務者は右生産者であるものというベく、したがつて、本件豚肉販売代金は実質的経済的には民法一七三条一号の生産者が売却した産物の代価に該当する。(二)仮りにそうでないとしても、農業協同組合たる被控訴人は、その外部活動が商人性を帯びているから、旧産業組合法五条に準じ商法及び商法施行法中商人に関する規定の準用によつて民法一七三条一号の卸売商人に準ずべき者であるから、その売却した本件豚肉の代価については、同条が準用される。と述べ、当審での証人細川喜惣治、控訴人三田三郎本人の各供述を援用し、甲第二号証の一、二、三、第三、四号証の成立を認めると述べたほか、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決三枚目表一一行目に「三七九、七五〇円」とあるを「三七九、七五七円」と訂正する。)であるから、これを引用する。

理由

一、被控訴人と控訴人オリエンタル畜産株式会社との間に被控訴人主張の豚肉売買契約が契約され、同控訴人が被控訴人からその主張数量の豚肉を代金五四九、四〇七円で買受けたことは当事者間に争いがなく、右代金中え三五九、七五七円の弁済がされたことは被控訴人の自陳するところである。

二、控訴人らは、右のほかに二〇、〇〇〇円の弁済がされたと主張し、原審で控訴人本多駒雄、当審で証人細川喜惣治、控訴人三田三郎はいずれもこれに添う供述をするが、右は、控訴人本多駒雄がその成立を認めその余の控訴人らの関係で原審証人藤岡新平の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証、右藤岡証人の証言に照らして信用し難く、他にこれを認めるに足りる証拠がないから、控訴人らの右主張は理由がない。

三、前記甲第一号証、藤岡証人の証言を総合すれば、控訴会社は、昭和二八年七月二五日被控訴人に対し、控訴会社の被控訴人に対する前記豚肉売買代金が一八九、六五〇円あることを認め、これに対し同日から完済まで日歩三銭の割合による利息を支払うこと、右のうち一〇〇、〇〇〇円を同年一二月三一日までに、五〇、〇〇〇円を昭和二九年一二月三一日までに、残三九、六五〇円を昭和三〇年一二月三一日までに支払うこと、これを期日に支払わないときは期限の利益を失い残額一時に請求されても異議なく、その場合には右期日の翌日から日歩五銭の割合による遅延損害金を支払うこと、を約し、控訴人三田三郎、同本多駒雄が右債務について連帯保証をしたことを認めることができる。

控訴人三田、同本多は、被控訴人係員の懇請により形式的に甲第一号証の連帯契約書を被控訴人に差し入れたが、控訴人両名には保証の意思がなく、前記連帯保証は無効であると主張し、原審で控訴人本多駒雄、当審で控訴人三田三郎、証人細川喜惣治はこれに添う供述をするが、これらは前記各証拠に照らして信用し難く、他にこれを認めるに足りる証拠がない。

四、進んで時効の抗弁について判断する。

まず、控訴人らは、本件は被控訴人の会員であるさん下農業協同組合の組合員が生産した豚肉を売り渡したものであるから、被控訴人は経済的実質的には民法一七三条一号の生産者に該当する。また、豚肉販売契約の実質上経済上の権利義務者は前記生産者である。よつて、本件債権については民法一七三条一号の適用があると主張する。しかしながら、本件豚肉が控訴人ら主張の者の生産にかかること及び本件契約の実質上経済上の権利義務者が右の者であることは、これを認めるべき証拠がない。仮りに、そうであつたとしても、本件豚肉販売契約の当事者は被控訴人であつてその生産者ではなく、被控訴人と右生産者とは法律上別個の人格者であることはいうまでもないから、その経済的実質的な観察から、被控訴人を民法一七三条一号の生産者としたり、本件債権を同号の生産者の売却した産物の代価とすることは、経済上の事実と法律上の事実とを混同するものであつて許されないものと考える。それゆえ控訴人らの右主張は理由がない。

つぎに、控訴人らは、農業協同組合が外部に対し営利的活動をする場合には全く抽象的な経済人として現われるから、その限りでは商人的待遇を受けるべく、したがつて、商人に準じて取扱われるべきであるから、被控訴人は民法一七三条一号の卸売商人に準じ同条の準用があると主張する。しかしながら、本件豚肉販売行為が営利的活動としてされたものであることを認めるべき証拠がなく、仮りにそうであつたとしても、他に特段の事情がない限りそれだけでは被控訴人を民法一七三条一号の卸売商人に準ずるものとすることは許されないものというべく、右特段の事情の存在することはこれを認めるべき証拠がないから、控訴人らの右主張は採用することができない。

更に、控訴人らは、農業協同組合たる被控訴人の外部的活動は商人性を帯びているから、旧産業組合法五条に準じ商法施行法中商人に関する規定が準用され、被控訴人は民法一七三条一号の卸売商人に準ずべきものであると主張する。しかしながら、農業協同組合は、その行う事業によつてその組合員及び会員のために最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行つてはならないものとされているから、その外部的活動は当然には商人性を帯びるものとはいい難く、被控訴人の外部的活動が商人性を帯びていたことはこれを認めるべき証拠がない。仮りに被控訴人の活動中に経済人のそれと等しいものがあるとしても、その本質が前記のとおりである以上、旧産業組合法五条のような特別規定のない現行法の下では、たやすく商法及び商法施行法中商人に関する規定を準用することは許されないものと考える。それゆえ控訴人らの右主張は採用することができない。

五、控訴人らが昭和二八年一二月三一日までに支払うべき前記一〇〇、〇〇〇円の支払いをしなかつたことは、弁論の全趣旨に照らして当事者間に争いがないから、控訴人らは期限の利益を失うとともにその翌日たる昭和二九年一月一日から残額一八九、六五〇円につき日歩五銭の割合による遅延損害金を支払わなければならなくなつたものと認められる。

六、よつて被控訴人の請求はすべて理由があるからこれを認容すべく、これと同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民訴三八四条、九五条、八九条、九三条一項但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤規矩三 鳥羽久五郎 羽染徳次)

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